地震大国日本で、建造物が地震に耐えることができるかどうかは大切なポイントです。家庭でできる防災のひとつがリフォームです。
2016年の熊本地震では複数回にわたってやってきた地震のせいで、予震では倒れなかった建物が本震で崩壊、さらに2000年に改正されていた最新の基準で建築されていた住宅も壊れました。このように予想できなかった災害も起きています。
ここでは耐震リフォームについて解説します。執筆時点に発表されている研究結果や、書籍を参考に執筆していますが、各種実験結果などは変動する可能性があります。ご自身でも最新の情報をお調べください。
地震に関する建物構造の種類3つ
耐震
耐震(たいしん)とは、揺れに耐えることです。耐震構造は、建物の柱や壁の強度や、変形性能(「粘り強さ」と表現されます)を高める構造で、建物全体で揺れに耐えようとする構造のことです。
耐震構造の例には、鉄筋コンクリート構造の場合は、柱や梁が一体化する構造にして強度を確保する、水平方向に作用する地震力に抵抗できる壁などの建材を設置する、柱の長手方向に入れる鉄筋を囲む鉄筋を密にする、などがあります。木造の場合は、柱と梁に斜め方向の「筋かい」を入れて地震力に抵抗させる、などがあります。
免震
免震(めんしん)とは、地震から免れることです。免震装置があり、建物と地面が切り離され、建物に伝わる衝撃エネルギーを小さくして建物に伝えないように、揺れの周期を長くしようとする構造のことです。免震装置には変形して柔らかいゴムなどが用いられています。
制震
制震(せいしん)とは、揺れのエネルギーを吸収することです。建物に、地震で揺れるエネルギーを吸収するダンパーと呼ばれる部材を入れて、建物の揺れを消費して熱エネルギーに変換し、揺れを減らそうとする方式です。制震装置は建物が強風を受ける際にも機能します。
耐震リフォームと建て替えの違い
耐震リフォームは、建物に住みながら、もしくは利用しながら地震に対する耐力を高めるような工事を行う方法です。建て替えは、現在存在している建物を解体して撤去して、新しく立て直すことです。
地盤も申し分ない、ハザードマップなどでも安全とされている地域にすでにお住まいの場合は、耐震リフォームの方が費用を安く抑えることができるでしょう。
「建て替えも耐震リフォームも費用がそこまで変わらない」とするリフォーム事業者もいますが、地盤やハザードマップ上で危険地域とされているエリアは、台風・水害・予想されていなかった地盤の動きによる地震・数百年前に起きていたような地震の再来などで、建て直しても「壊れる可能性」は0%ではありません。
例えば宮城県石巻市のいくつかの地域では、東日本大震災の後に壊れた住宅を建て直して住んでいたけれど、2019年の台風19号による水害でさらに被害を受けました。地域によって、条件や状況は異なります。決して「建て替えの方が安い」と言い切れるものではありません。
耐震リフォームの補助金(助成金)・減税
耐震リフォームの補助金(助成金)
耐震リフォームの補助金・助成金の内容は、各地方自治体によって異なります。条件も金額も異なり、さらに利用するためには事前に指定の窓口で申請をしなければなりません。耐震リフォームをしたい物件がある自治体に相談してみましょう。
例えば千代田区は、「助成対象となる建築物は、民間建築物で、木造以外の建築物・昭和56年5月31日以前に建築確認を得た建築物・原則として、建築基準法に適合している建築物」と指定しています。助成対象となる所有者も「個人・中小企業基本法に定義される中小企業者相当である者」のいずれかと指定されています。詳細はこちらをご覧ください。
耐震リフォームの減税
国税庁は「平成18年4月1日から令和3年12月31日までの間に、自己の居住の用に供する家屋(昭和56年5月31日以前に建築されたものに限ります。)について住宅耐震改修をした場合には、一定の金額をその年分の所得税額から控除する」と指定しています。詳細はこちらをご覧ください。
適用要件・計算方法・適用を受けるための手続などがあるため、居住用の家屋が当てはまるかどうか確認をして、受けることのできる減税は申請をして、受けましょう。
地震の際に起きること〜「想定以上に深刻な被害が出る」
2009年10月に防災科学技術研究所で行われた実験では、「長期優良住宅」の耐震基準を満たす木造3階建ての住宅が倒壊するという試験結果が出ました。建築基準法が求める耐震性の約1,44倍を確保していたにもかかわらず、です。
この実験結果はテレビニュースなどでも多く報道されましたが、「これが原因である」と断定できる原因ではなく、4つほどの理由から倒壊したとされています。
自動車や航空機の技術者の間では「事故は常に専門家の知識の間隙を縫って生じる」という言葉がよく言われるそうですが、建築の構造設計ではほとんど言われないのだそうです。地震などの災害は「想定以上に深刻な被害が出る」と言えるでしょう。
2016年の熊本地震を解析して推定できたことには4つ、「全身で準耐力壁が耐力を失った」、「本震で筋かいが破壊、柱が壊れて1層崩壊に」、「本震1回だけの地震では崩壊しない」、「準耐力壁がないと前震で1層崩壊する」というものです。(日経BP社より)
いつどこにどのような揺れの地震が発生するか、はっきりしない。そのために「どのような地震が来ても耐えきれるか」という視点で建築されるべきだと言えるでしょう。
自宅(木造)の耐震性を測る方法と費用について3つ
1.一般人でもできる耐震診断をする〜無料
木造住宅には「簡易診断法」があり、一般人でもできるチェックリスト方式の診断方法です。例えば東京都は、東京都耐震ポータルサイトを公開しており、耐震診断や改修に関する相談窓口の一覧を公開しています。
そのほか各自治体で、無料で情報が公開されています。お住まいの地域の耐震診断方法を確認して、実施しましょう。
2.専門家に有料で耐震診断をしてもらう
耐震診断とは、すでに建っている建物について現地を目視調査して、材料強度の試験を行い、設計図書に基づいて耐力や変形性能を計算で求める方法を組み合わせて建物の耐震性を判定するものです。現行の耐震基準に適合しているかどうか、決められた手続きに従ってチェックをします。
木造住宅、延床面積が120㎡程の在来軸組構法の建物の場合の費用は、約20万円~50万円程度です。竣工時の図面が有る場合の通常料金で、図面がない場合は必要な図面を作成する料金が発生します。(一般財団法人日本耐震診断協会より)
3.自宅を建設した業者や大家に確認をする
建物は、建築された年の時点の法律や基準で建設されています。そのため工務店や業者、大家に確認することで「いつ建設された建物か、その当時の基準はどのようなものか」、「それに対して、耐震・免震・制震のための補強はどのように行なっているか」と質問することができます。
ただし「築浅で、新しければ大きな地震や、これまでに起きたクラスの地震にも耐えることができる」とは言いきれません。2016年に発生した熊本地震では、2000年に改正されていた建築基準法施工令にのっとって、限界耐力計算法が導入され、地震力の規定が見直され、それ以降に建設されていた住宅も多く倒壊しました。
耐震診断の内容について4つ
1.耐震診断の流れ
予備調査、耐震診断、判定、そして補強設計や工事に至ります。予備調査では現地目視調査や図面・計算書建設年代の確認が行われ、耐震診断方針が策定されます。耐震診断では、建物の耐力が算定され、建物現況調査が行われます。
判定の結果、「補強不要」「補強案作成」「建て替え要」などの判断がなされ、必要に応じて補強設計と工事が実施されます。
2.鉄筋コンクリート造建物の診断方法
1次診断法、2次診断法、3次診断法の3種類があります。1次診断法は、簡易な診断法で、壁の多い低層の建物に適しています。2次診断法は柱や壁の耐力や、靭性(じんせい)の判定が行われます。3次診断法は最も精密な診断です。柱・梁・壁の耐力と靭性の判定が行われます。
3.木造住宅の診断方法
簡易診断法、一般診断法、精密診断法の3種類があります。簡易診断法は専門知識のない一般人でもできる簡易的な診断法で、チェックリスト方式で診断を行います。一般診断法は建築の知識がある人が行いますが、比較的簡易的な診断方法で、代表的な部位に対する平均評価を行います。精密診断法は最も精密な診断で、建築士が行います。詳細情報に基づき、正確に診断をします。
4.専門家に耐震診断を依頼するときに確認すること
「木造住宅、延床面積が120㎡程の在来軸組構法の建物の場合の費用は、約20万円~50万円程度」の費用がかかります。つまり、耐震診断の費用が数万円で済む業者にはいくつかの質問をしましょう。診断に携わる人が持っている資格・診断の工程・診断にかかる時間などの質問です。
「高額な耐震診断は信用できる」とは言えませんが、逆にあまりにも安い耐震診断には「安く済ませることのできる理由」があるはずです。
耐震リフォームでできること4つ
耐震診断をしたうえで、「十分な耐震性がない」と判定が出たら耐震性を高める工事が必要です。
1.強度を高める方法
壁や筋かい(ブレース)など水平力に抵抗できる要素をバランスよく増やす、鉄筋コンクリートの柱や梁を大きくまし打ちして強度を高める方法などがあります。
2.変形性能を高める方法
柱や梁に鉄板や炭素繊維などを巻きつける方法、建物の外側に補強用の骨組みを増設する方法などがあります。
3.制震構造にする方法
制震ダンパーを設置して建物の揺れを低減させる方法、木造建物の柱・梁・筋かいなどの「取り合い部分」と呼ばれる箇所に粘弾性体を取り付ける補強などがあります。
4.免震構造にする方法
免震構造は工期が非常に長く、金額も莫大になる方法です。地下工事を伴うものが最も大変で、基礎部に、免震装置を設置します。つまり建物の地下の部分に免震装置を設置する工事です。
建物の中間層部分に免震装置を入れる方法は、地下工事を伴う基礎免震工事よりも手軽に行うことができます。とはいえ、「自分のよく見る大きな建物の地下に入れ込むようにして免震装置を入れる」「中間部分に免震装置を入れる」とイメージをすると、ものすごい工事だと感じませんか。
耐震リフォームの例と費用相場
費用の相場は、どのような耐震リフォームを行うのか、つまり現状の建築物の状況に応じるため一概に「いくら」と表現できませんが、数百万円かかります。
築28年の木造戸建て住宅の耐震工事、費用が約250万円の例があります。住宅は2×4(ツーバイフォー)材を使用した木質パネル工法でした。内訳は1階の耐震補強は15箇所で約130万円、2階の耐震補強は9箇所で約88万円、像しくしていた部分の補強で約20万円、復旧工事で12万円でした。
最後に
ご自身の自宅や実家は地震に強い対策が行われていますか?不安がある方は耐震診断をして、結果に応じてリフォームを検討しましょう。大切な家族は、家に守られるべきです。自分の家を守ることができるのは、住んでいるご家族です。