ここでは、改葬の手続きの内容と方法について解説します。必要な機関で必要な書類を揃えなければならないなど、準備や実行に時間と手間がかかるため、早め早めに取り組みましょう。
改葬についての知識2つ
1.改葬とは
改葬とは、既に埋葬されている遺骨や遺骨を含むお墓を別のお墓に移すことをいい、簡単に言えば「お墓の引っ越し」です。改葬手続きには市町村での許可手続きが必要になり、厚生労働省は「墓地、埋葬等に関する法律」を以下のように定めています。(以下引用)
第五条 埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない
2 前項の許可は、埋葬及び火葬に係るものにあつては死亡若しくは死産の届出を受理し、死亡の報告若しくは死産の通知を受け、又は船舶の船長から死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた市町村長が、改葬に係るものにあつては死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が行なうものとする。
無許可で改葬を行うと、法律違反により罰金又は刑罰が科せられる可能性があります。きちんとした改葬の知識を身につけて、正しい手続きを行いましょう。
2.改葬をする理由
転居などにより故郷を離れて暮らす家族が、お墓が遠くて定期的にお墓参りやお手入れができない状況を変えるために、自宅近くへの改装を行います。
また、お墓の持ち主の高齢化や子どものいない家庭では、だんだんとお墓の管理や維持が難しくなってきます。すると誰も管理しない、誰のお墓かもわからない「無縁墓地」となってしまいます。そうなることを懸念して、早いうちに納骨堂へ改葬する方も増えてきました。
改葬の例と方法4つ
1.寺から霊園へ
①現在のお寺の管理者に、「埋葬証明書」を発行してもらいます。お寺の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
②現在のお寺がある市町村役場で、「改葬許可申請書」を取得します。お寺の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
③改葬先の霊園で「受入証明書」を発行してもらいます。
④「改葬許可申請書」に改葬先の管理者記入欄があれば、霊園管理者に署名・捺印をしてもらいます。
⑤改葬先の霊園がある市町村役場で、「埋葬証明書」「改葬許可申請書」「受入証明書」などの必要書類を提出します。(市町村によって必要書類や書式が異なります。)そして、「改葬許可証」を交付してもらいます。
⑥改葬先の霊園へ「改葬許可証」を提出します。
⑦現在のお寺に墓石があれば、撤去し更地にしてお寺に土地を返却する「墓じまい」をする必要があります。
最終的には、きれいな状態で土地を返却し、お世話になった住職へきちんとお礼のあいさつをしておきましょう。「墓地返還届」が必要なところもあるので、確認が必要です。
2.納骨堂から霊園へ
①現在の納骨堂管理者に、「埋葬証明書」を発行してもらいます。納骨堂の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
②現在の納骨堂がある市町村役場で、「改葬許可申請書」を取得します。納骨堂の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
③改葬先の霊園で「受入証明書」を発行してもらいます。
④「改葬許可申請書」に改葬先の管理者記入欄があれば、霊園管理者に署名・捺印をしてもらいます。
⑤改葬先の霊園がある市町村役場で、「埋葬証明書」「改葬許可申請書」「受入証明書」などの必要書類を提出します。(市町村によって必要書類や書式が異なります。)そして、「改葬許可証」を交付してもらいます。
⑥改葬先の霊園へ「改葬許可証」を提出します。
⑦今までお世話になった納骨堂管理者へ、お礼のあいさつをしましょう。なお、遺骨を永代供養墓に安置している場合は、遺骨を返却してもらうことはできません。
3.霊園から霊園へ
①現在の霊園の管理者に、「埋葬証明書」を発行してもらいます。霊園の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
②現在の霊園がある市町村役場で、「改葬許可申請書」を取得します。霊園の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
③改葬先の霊園で「受入証明書」を発行してもらいます。
④「改葬許可申請書」に改葬先の管理者記入欄があれば、霊園管理者に署名・捺印をしてもらいます。
⑤改葬先の霊園がある市町村役場で、「埋葬証明書」「改葬許可申請書」「受入証明書」などの必要書類を提出します。(市町村によって必要書類や書式が異なります。)そして「改葬許可証」を交付してもらいます。
⑥改葬先の霊園へ「改葬許可証」を提出します。
⑦現在の霊園に墓石があれば、撤去し更地にしてお寺に土地を返却する「墓じまい」をする必要があります。きれいな状態で土地を返却し、お世話になった住職へきちんとお礼のあいさつをしておきましょう。
また、同じ霊園内で永代供養墓や散骨、樹木葬など供養形式を変更する場合は、改葬申請は必要ありません。
4.A市からB市へ
市へ提出する書類は、各市によって異なります。A市へは、改葬許可申請書や埋葬証明書・死亡者の除籍謄本・申請者の本人確認書類・墓地返還届などが必要な場合があります。B市へは、埋葬証明書・改葬許可申請書・受入証明書などが必要になります。
住んでいる場所によって少しずつ異なります。各市に問い合わせをするか、市のホームページで確認しましょう。
5.寺院墓地から寺院墓地へ
基本的に他の改葬と同じ手順です。ただし寺院墓地は、宗派が異なると埋葬することができないところがあります。事前に改葬先の寺院墓地が信仰している宗派を確認しておきましょう。
①現在の寺院の管理者に、「埋葬証明書」を発行してもらいます。寺院の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
②現在の寺院がある市町村役場で、「改葬許可申請書」を取得します。寺院の管理者に、書類の管理者記入欄に署名・捺印をしてもらいます。
③改葬先の寺院墓地で「受入証明書」を発行してもらいます。
④「改葬許可申請書」に改葬先の管理者記入欄があれば、霊園管理者に署名・捺印をしてもらいます。
⑤改葬先の寺院墓地がある市町村役場で、「埋葬証明書」「改葬許可申請書」「受入証明書」などの必要書類を提出します。(市町村によって必要書類や書式が異なります。)そして、「改葬許可証」を交付してもらいます。
⑥改葬先の寺院墓地へ「改葬許可証」を提出します。
⑦現在の寺院に墓石があれば、撤去し更地にしてお寺に土地を返却する「墓じまい」をする必要があります。
きれいな状態で土地を返却し、お世話になった住職へきちんとお礼のあいさつをします。「墓地返還届」が必要なところもあるので、確認が必要です。
改葬のポイント7つ
1.改葬にかかる費用
現在の墓地を撤去
1平方メートル当たり10万~20万円です。重機が入らないような立地条件の場合は、割増料金が発生します。
閉眼供養と開眼供養のお布施
それぞれ1万円~5万円です。現在のお墓に入っている魂を抜いて、新しいお墓へ入れる儀式です。それぞれの墓地で僧侶に読経をお願いするので、それぞれにお布施が必要になります。
離檀料
1万円~数十万円です。現在の墓地を離れることに対して、感謝とお詫びの意味を込めてお寺に支払う料金です。
改葬先の墓地費用
新しい墓石建立費は130万~170万円、永代使用料50万円~数百万円、管理費5,000円~1万5千円その他現在墓地にある墓石を、新しい墓地に持っていく場合は、別途運送費等がかかります。また、埋葬形式を永代供養や納骨堂、樹木葬にすることで費用は若干安くなります。
2.改葬にかかる期間
改葬を行うのにかかる期間は早くても3ヶ月、長くて半年ほどの長い日数がかかります。余裕を持って手続きを進めていきましょう。
3.新しい改葬先(移転先)が確定していないと改葬はできない
改葬するために必要な書類に、新しい改葬先を記入する欄があります。そこに記入していないと書類を提出し、改葬することはできません。
4.複数の遺骨を改葬することもできる
お墓が複数あり、管理が大変で改葬を決断するケースも増えています。まとめたいお墓が同じ敷地内に全てある場合は、役所への届けは不要です。別々の土地にあるお墓をまとめる場合は、前述した改葬の手続きをとる必要があります。
埋葬証明書は遺骨1つにつき1枚必要です。複数の遺骨を改葬する場合、それぞれの遺骨が埋葬されている土地の管理者に埋葬証明書を発行してもらいます。改葬許可申請書についても、改葬予定の遺骨人数分必要になるので注意しましょう。
5.元々納骨していた場所や埋葬していた場所にあらかじめ相談をしておく
改葬の際には現在の納骨している場所の管理者にあらかじめ申し出て、丁寧に説明しましょう。厚生労働省によると、改葬は年間約9万件ほど行われていますが、管理者とのトラブルが増加傾向にあります。
中でも寺院墓地などで檀家に入っている人が、高額な離檀料を請求されたり、埋葬証明書や改葬許可申請書への署名・捺印を拒否されたりする例が挙がっています。
改装の際は現状を詳しく説明し、今のままではお参りやお手入れが行き届かずより良い状態にするために改葬を考えている旨を相談し、誠意をもってこれまでの感謝を伝えましょう。
6.家族や親族にあらかじめ相談をしておく
現在の納骨している場所の近くに家族や親戚が住んでいる場合は、その管理者と家族や親戚との付き合いにも関わってきます。家族や親戚にも事前に相談し、理解しておいてもらいましょう。
7.トラブルが増えているため、「おかしい」と感じたらしかるべき機関に相談する
厚生労働省は、全国の消費生活センターに葬儀や墓に関するトラブルの報告が増えていると報告しており、特に葬儀に関するトラブルは、2010年以降は増加傾向にあります。
葬儀は、予想ができないタイミングで必要になることも多く、たくさんの選択肢から比較検討する時間がないことも多々あります。人がいつ死ぬか、いつ葬儀が必要になるかタイミングがわかりづらいためです。
しかし改葬など、墓に関しては、葬儀と比較すると「急なこと」は少なく、準備に時間をかけることもできます。時間をかけれることはよく調べて、何かおかしいと感じたら詳しい人に相談するなど、トラブルに巻き込まれないようにしましょう。
最後に
現在ではお墓の形式も多岐にわたり、故郷から離れて暮らす都市部の家族にも選択肢が増え便利になってきました。故人を悼み供養するとともに、自分や家族の近況報告をすることで自分を顧みる大切な時間が「お墓参り」ではないでしょうか。
お墓の管理が難しくなった場合は、無縁墓地になる前によく相談して、よりよい選択をすることが大切です。